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東京地方裁判所 平成9年(ワ)16414号 判決 1999年3月26日

原告

小池藤昭

右訴訟代理人弁護士

荒木昭彦

古田典子

被告

全日本海員組合

右代表者

中西昭士郎

右訴訟代理人弁護士

田川俊一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告が被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、金六七六万四七八〇円及びこれに対する平成九年七月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告に対し、平成九年八月一日から毎月二五日限り金三四万二五七八円、毎年六月末日限り金七三万六五四三円及び毎年一二月末日限り金六三万九五八二円を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被告から依命休職員とすることを命じられた原告が、依命休職員とされた期間が満了したことを理由に退職したものと取り扱われたことが違法であるとして、被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金の支払を求めた事案である。

二  前提となる事実

1  被告は、海上労働者の生活の向上などを目的とする労働組合である(争いがない)。

2  原告は、昭和六〇年一〇月一日被告に雇用された(争いがない)。

3  被告は平成七年七月一三日原告に対し同年八月一日から平成八年七月三一日まで原告を依命休職員とする処分(以下「本件依命休職処分」といい、本件依命休職処分によって休職とされた平成七年八月一日から平成八年七月三一日までを以下「本件依命休職期間」という)をし、本件依命休職期間が満了した翌日である同年八月一日原告に対し原告が本件依命休職期間の満了によって被告を退職したことを通知した(争いがない)。

4  昭和五七年六月現在の被告の組合従業員規定(この組合従業員規定は平成八年四月に改正されているが、本件依命休職処分及び同処分に係る本件依命休職期間中については右の改正前の組合員従業員規定が適用される。この改正前の組合従業員規定を以下「本件旧規定」という)には、次のような定めがある(書証略)。

(一) 第一条 総則規定

1 この規定にいう組合従業員とは、規約に定める執行部員と組合職員をいう。

2ないし4は省略

(二) 第二条 組合従業員の区分

1 執行部員

規約第9章第72条A項および第73項A項に規定された者をいう。

2 組合職員

執行部員以外の者をいい、その名称と選任基準は次による。

(1) 特別職員

(イ) 局長付補佐A

法律専門家、学識経験者およびこれに準ずる者で組織活動上必要とする専門的な知識を活用するため採用された者。

局長付補佐B

所管する業務および組織運営について、執行部役職員と同等の識見と能力を有すると認められ任用された者

(ロ) 部長付補佐A

通訳等専門的な特殊技術およびこれに準ずる技能を活用するために採用された者

部長付補佐B

所管する業務について責任者を補佐し、日常業務遂行の指揮、指導を行なう能力を有すると認められ任用された者

(ハ) 参与

本組合の組織強化のため特に必要と認め採用された者

(ニ) 嘱託

組合対策上設置される連絡事務所の管理等の必要上、3年をこえない範囲で期間を定め採用された者

(ホ) 主任

所管の事務に精通し、日常の組織活動において執行部員を補佐し、責任者として他の事務職員を指揮監督する能力を有すると認められ任用された者

(2) 運転士

もっぱら組合の車輛の運転に従事するため採用された者。このうちの車輛の運転のほか管轄範囲の車輛の整備、運行管理を責任をもって行い得ると認められた者を先任運転士という。

(3) 事務職員

原則として組織活動には従事せず、もっぱら事務職務に従事するため採用された者。このうち専門的部門あるいは所管の業務について自ら責任をもって職務を遂行し、あるいは他の事務職員を指導し得る能力を有すると認められた者を先任事務職員という

(4) 用務員

組合施設の保守管理業務に従事させるため、および組合の雑務に従事させるため採用された者

(二) 第五条 休職員

1 療養休職員

省略

2 依命休職員

(1) 省略

(2) 用務員を除く組合従業員が満50才以上で配置上止むを得ないと認められる者は、1カ年以内の範囲で中央執行委員会の決定により依命休職員とすることができる

3 依願休職員

省略

(四) 第一〇条 組合従業員の退職

1(1) 療養休職期間が満了したとき

(2) 依命休職期間が満了したとき

(3) 定年または退職年令に達したとき

(4) 期間を定め採用された者が、その期間が満了したとき

(5) 依願によるとき

(6) 死亡したとき

2 組合従業員が依願退職をする場合は退職を希望する日の少なくとも1カ月前に所属の長に文書をもって申し出なければならない。

5 本件依命休職処分前の原告の一か月当たりの賃金は金三四万二五七八円であり、その月の原告の賃金はその月の二五日に支払うこととされていた。本件依命休職処分前の原告の期末手当(賞与)は毎年六月と一二月に支給されており、平成六年一二月の分が金六三万九五八二円、平成七年六月の分が金七三万六五四三円であった(弁論の全趣旨)。

6 本件依命休職期間中に被告から支払われた賃金及び賞与の合計金額は金四二〇万九三四二円である(弁論の全趣旨)。

三  争点

1  本件依命休職処分及び同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職は無効か。

(一) 被告の主張

(1) 被告は、海上で働く労働者の生活と地位向上を図り、併せて我が国経済と国民生活の安定に寄与することを目的として昭和二〇年一〇月五日に設立された全国で唯一の産業別単一組合であり、我が国経済のめざましい発展とともに組織の拡充を図り、昭和四〇年代には組合員数一六万人余りを有する組合に発展してきたが、昭和五〇年代のプラザ合意を契機とした円高基調と長引く不況の下で、日本商船の海外への流出や国際的漁業規制等の圧力が一層強められ、多くの組合員が職場を奪われた。このため平成七年八月末現在の被告の組合員数は五万人を割るという深刻な状況となっており、平成八年七月末現在の組合員数は約四万六〇〇〇人である。

(2) 組合員数の激減によって被告の財政が破綻に瀕するおそれが生じたため、被告はこれを回避するため次のとおり機構改革と人員削減に取り組むことにした。

ア 平成五年三月二四日開催の第一二回中央執行委員会は右に述べた組織動向と財政状況にかんがみ、諮問機関である財務委員会に対し組合財政の再建策を諮問したところ、同委員会は次のとおり答申した。同年五月に出された第一次中間答申では海員福祉研修会館の運営のあり方について答申し、同年八月に出された第二次中間答申では、組合財政の健全化を図るために組織の機構改革と合理化に着手すべきであるとして、特別委員会を設けて今後の情勢変化に即応して本部機構及び支部機構の統廃合による機能の効率化を図り、人件費を含む一般管理費の大幅な削減を行うなど徹底した要員及び諸経費のスリム化を図るべきであると答申した。平成六年二月に出された第三次中間答申では信託銀行と締結している特金・ファントラ契約の解約方針などについて答申した。平成七年四月に出された第四次中間答申では、業務機構改革を行うこと、簡素にして効率的な定常業務のあり方とこれを実現するための業務推進機構を早期に構築すること、執行部員・事務職員の資質向上と少数精鋭化を図ること、本部機構の再編及び支部機構の統廃合による諸経費の削減合理化を図り、併せて常任役員の公用車の廃止も検討すべきであることを答申した。

イ 平成五年一一月に開催された第五四回全国大会(被告の最高決議機関)は、今後の組織動向と深刻化する組合財政の状況を踏まえ、組織の機構改革と執行体制の効率化に取り組む方針を決定した。右の大会決定の方針に基づいて執行体制効率化検討委員会が設置され、同委員会は同年九月六日執行体制効率化に関する答申を取りまとめ、中央執行委員会に提出した。これらの答申事項は被告の第五〇年度(平成六年八月から平成七年七月まで)の活動方針に盛り込まれた。

ウ 平成六年一一月に開催された第五五回全国大会は、本部機構の改編、支部機構の統廃合、組合従業員の削減、常任役員の定数見直しなどを具体的に盛り込んだ第五〇年度活動方針を決定した。平成七年三月末現在の組合員数は四万八九八九人となり、前年同月比で二五六五人が減少した。このため被告の財政は第五〇年度第一・四半期及び第二・四半期の決算において正規組合員の組合費収入が近年では初めて予算の収入見込額を下回るという深刻な状況に至った。

エ 平成七年五月二四日に開催された第二三九回全国評議会(被告の全国大会に次ぐ決議機関)は、第五五回全国大会で決定された方針に基づいて、<1>常任役員の役割分担の見直し、業務機構改革を行うための規約改正検討委員会の設置、<2>業務点検チームの検討を促進し、現段階における簡素にして効率的な定常業務のあり方と実現のための業務推進機構の構築、<3>執行部員、事務職員の資質向上と少数精鋭化、有能な人材(若年の後継者)の補充と育成の着手、併せてそれに応じた労働条件・環境の改善、<4>組織規模を勘案し、本部機構の再編及び支部機構の統廃合による諸経費の節減合理化を図り、併せて常任役員の公用車の廃止の検討を重点に実施可能なものから順次取り組むことを決定した。

オ 同年七月一二日に開催された第二二回中央執行委員会は、第二三九回全国評議会の決議に基づき執行体制強化の一環として同年八月一日をもって公用車廃止を決定した。

(3) 原告は本件旧規定二条二項(2)号にいう運転士として被告に採用された者であるが、被告は第二二回中央執行委員会の終了後に口頭で原告に対し公用車廃止の決定を通知し、翌同月一三日公用車廃止に伴う貴殿の処遇について(通知)と題する書面をもって原告に対し公用車廃止の決定を伝えた。同書面には原告を本件旧規定五条二項(2)号により依命休職員にすると書かれていた。本件依命休職期間中の原告の賃金については本件規定四五条を適用し、本件依命休職期間の満了後の退職については退職手当規定に基づいて措置することになっていた。被告は本件依命休職期間中は原告に再就職活動に専念してもらうとともに被告においても再就職のあっせんに努力するつもりであったので、原告に対し同年八月二日付けで履歴書送付について(お願い)と題する書面を送付して就職あっせんのための履歴書の送付を求めたが、原告から履歴書が送付されてこなかったので、再度原告に対し平成八年一月一六日付けで履歴書の送付を求めたが、原告から履歴書は送付されてこなかった。本件依命休職期間は同年七月三一日をもって満了したので、被告は同年八月一日付けで依命休職期間満了に伴う退職について(通知)と題する書面により原告が同年七月三一日の満了をもって被告を退職したことになったことを通知した。

(二) 原告の主張

(1) 本件依命休職処分の発令時及び本件依命休職期間の満了時にそれぞれ「配置上やむを得ないと認められる」事情は認められなかったのであるから、本件依命休職処分及び本件依命休職期間の満了による退職(解雇)は無効である。

ア 本件依命休職処分の根拠規定である本件旧規定五条二項(2)号は本件旧規定一〇条一項(2)号と結びつく処分であって、依命休職期間の満了によって退職(解雇)と取り扱われるのであり、依命休職は被告の経営上の必要によって行われることであるから、依命休職の要件である「配置上やむを得ないと認められる」場合の判断に当たってはいわゆる整理解雇の要件に準じて判断すべきであり、また、「配置上やむを得ないと認められる」事情が依命休職の発令時に存し、かつ、その期間の満了時にも存していることが必要であり、その場合に初めて期間の満了による退職(解雇)という取扱いをすることができると解すべきである。そして、依命休職期間中に「配置上やむを得ないと認められる」事情が消滅すれば、もはや依命休職とする理由はなく、速やかに復職させるべきであって、そのような措置を取らずに依命休職期間の満了によって退職(解雇)という取扱いを許すのは不当である。

イ 本件依命休職処分及び本件依命休職期間の満了による退職(解雇)について「配置上やむを得ないと認められる」事情があるかどうかについての判断に当たっては、前記のとおり整理解雇の有効要件に準じて、<1>人員削減の必要性、<2>人員削減手段としての解雇の必要性、不可避性、<3>解雇対象者の選定の合理性、妥当性、<4>解雇手続の妥当性、正当性などの有無を検討すべきであるということになるが、次に述べることによれば、本件依命休職処分の発令時及び本件依命休職期間の満了時に「配置上やむを得ないと認められる」事情が認められなかったことは明らかである。

(ア) 人員削減の必要性

本件依命休職処分は人件費の削減という名目で行われているのであるから、果たして人員削減の必要性があったかどうかが問題となる。被告に組合員の減少が見られることは被告の主張のとおりであるが、被告の財政の悪化の原因は組合員の減少のみではない。すなわち、被告の役員は被告の規約に違反して元本の保証のない有価証券などに被告の資金を投資して多額の損失を生じさせた。また、被告が設立した株式会社マリコットサービスの経営に係る海員福祉研修会館の建設費、運営費などによる赤字の補填のために被告から多額の資金援助がされている。しかし、被告の財政を悪化させたこれらの原因のうち、前者については、当時の役員の責任の追及などが行われないまま現在に至っており、当時の役員の責任を問うことなく、悪化した被告の財政を原告の解雇によって埋め合わせることは労働者の権利を擁護する立場にある労働組合として到底許されないことであるというべきであり、後者については、株式会社マリコットサービスの収支も徐々に改善されつつあると報告されており、同社に対する資金援助は将来的には減少するはずであるから、被告の財政状況は原告を直ちに解雇しなければならないほどにひっ迫しているものとはいえないのである。

被告の主張に係る被告の組合員数の減少についても、なるほど日本人船員は年々減少しているが、非居住特別組合員とされた外国人組合員は年々増加しており、非居住特別組合員の納める組合費も年々増加しており、被告の主張に係る組合員数の減少とそれに伴う組合費の減少のみから人員削減の必要性を認めることはできない。

被告の提出に係る書証(書証略)によれば、原告の退職がなくとも、従業員数は年々減少しており、退職者の中では定年による退職者の方が多いのであって、人員の整理が進んでいる状況にあったのであり、それに加えて原告を解雇する必要はなかったというべきである。

(イ) 人員削減手段としての解雇の必要性、不可避性、解雇回避義務

本件依命休職処分を発令しなくとも人件費の削減を実現する方法は他にもある。

例えば、被告では、中央執行委員などの役職を退職した者を顧問として迎え入れ、執行委員当時の八割の俸給を支払っており、第四九年度と第五二年度を比較すると、顧問が一名増加しているが、被告においては顧問に対する給料が高すぎることが問題とされていた。

また、被告の従業員の賃金改定においても平成六年度の役員月俸は組合長が二万七〇〇〇円、副組合長が二万四〇〇〇円、中央執行員が二万一〇〇〇円の値上げをしており、平成七年度は組合長が一万円、副組合長が九〇〇〇円、中央執行委員が八〇〇〇円の値上げをしており、いずれも大幅な値上げというべきである。このような点を改善しないまま本件依命休職処分を発令し本件依命休職期間の満了をもって原告を退職(解雇)として取り扱ったのは解雇回避義務を尽くしたものとはいえない。

(ウ) 人員削減手段としての解雇の必要性・配転可能性

被告が原告のプロのドライバーとしての職業経験を評価して原告を採用したことは想像できるが、採用に当たり被告から運転手という職種限定契約であるとの説明は受けていない。原告は被告において専ら運転業務に従事していたとはいえ、原告の能力、適正から考えて運転業務以外の業務、例えば、事務作業などについて適性がないなどということはおよそあり得ないのであって、被告における業務が通常人以上に特殊あるいは高度な能力が要求されるものばかりであるという根拠も全くない。現に本件依命休職期間中になぜ原告をオルグ活動に従事させないのかという質問がされているが、これに対しては「向き不向きもあります」といった抽象的な回答しかされていないのであり、右のような質問は被告における業務の内容に照らし原告が運転業務以外の業務に従事することが可能であることを前提としている。

(エ) 被解雇者選定の合理性

原告に本件依命休職処分を発令したのは原告が被告の労働基準法違反を申告などしたことへの報復を目的としており、恣意的である。その理由は後記第二の三1(二)(2)のとおりである。

(オ) 解雇手続の妥当性

被告は本件依命休職処分を発令するに当たり原告と事前に何の協議もせずに突然本件依命休職処分を発令し、同処分に係る本件依命休職期間の満了とともに退職(解雇)を通知しているが、本件依命休職期間は一年間という長期間であり、この間に原告を研修その他の方法により他の業務に習熟させて就労させることも十分な可能な期間であり、それにもかかわらずそのような手続を全くとらないでされた本件依命休職処分及び同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職(解雇)は手続としても無効である。

(2) 本件依命休職処分及び同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職(解雇)は、原告が被告の労働基準法違反を申告などしたことへの報復を目的とした不利益取扱いであり、労働基準法一〇四条二項により無効である。

すなわち、被告の組合長が中西昭士郎(以下「中西」という)に代わった昭和六三年一一月以降原告には深夜までに及ぶ時間外勤務が増え始め、平成二年ころには中西組合長から命じられる時間外勤務が一か月当たり一〇〇時間ないし一三〇時間にも達するようになり、原告は疲労困ぱいし、被告に対し深夜労働の軽減、労働条件の改善を求めるようになった。また、原告は、平成四年七月二四日に明らかになった資金運用に生じた損失について説明会の開催を求めたり、説明会で意見を述べたりし、平成五年四月には被告の従業員の男女差別の改善を強く求めて苦情処理を申し立て、平成七年二月には時間外・休日労働に関する三六協定が締結されていないことが判明したため、被告の所在地を管轄する三田労働基準監督署の労働基準監督官にも確認した上で、同月下旬以降は被告からの時間外・休日労働を断ることにし、同年四月一〇日には三田労働基準監督署に対し被告が労働基準法に違反していることを申告した。三田労働基準監督署の労働基準監督官は同月中旬ころ右の申告を契機として被告を訪問し、事実関係を調査した。すると、被告は同月二五日突如として第三次中間答申までにはなかった「常任役員の公用車の廃止」を第四次中間答申に盛り込み、同年五月二四日開催の全国評議会に被告の組合員減少による財政ひっ迫を根拠として公用車廃止を提案し、承認を得た。しかし、右の全国評議会では公用車の廃止は決定されたが、原告の解雇は決定されていないのであり、また、公用車の廃止を契機として運転士であり被告の組合員でもある原告を依命休職させ、依命休職期間の満了によって退職(解雇)させることを評議員にも一般組合員にも全く知らせずに、隠密裏に原告を被告から排除しようとしたのである。

以上のような経過によれば、中西組合長を始めとする被告の役員が原告による労働基準法違反の残業拒否と労働基準法違反の申告など、被告にとって好ましくない権利主張を続けてきた原告を疎んじて本件依命休職処分及び同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職(解雇)を行ったことは容易に推定できる。

そして、被告が本件依命休職処分を行った第五〇年度及び本件依命休職期間が満了したとして退職(解雇)させられた第五一年度はいずれも単年度三億円ないし五億円の黒字であって、原告一名を解雇しなければならない必要性は全く認められない。また、解雇回避努力も全くされていない。被告の作成に係る「従業員のスリム化」の各方策はほとんど実行されず、新規採用を中止するどころか、原告を退職(解雇)させた後も被告の本部などに複数の労働者を新規に採用し、選択定年制や条件付希望退職も実施していない。原告が退職(解雇)させられた平成七年当時は組合収入の増加傾向が確定したため、新規採用の中止、選択定年制や条件付希望退職者の募集などの手段を執ってまで「スリム化」しなければならないほどに人員を削減する必要はなかったのである。

また、被告はかつて支部を閉鎖する際にも閉鎖する支部の従業員と話し合い、納得して退職するか本人の希望により他の部署に配置転換して解決しており、整理解雇されたのは原告だけである。事前の意見の聴取もなく、突然依命休職を告知するというやり方は人員整理の手続に瑕疵があるといえるし、組合長を始めとする役職者が原告を疎ましく思ったための報復的不当解雇であることを裏付けるものである。

被告には関連会社や関連団体が多数あり、これまで被告の従業員については六〇歳までの雇用を保障していることからすれば、原告だけを配置転換できない理由もない。

さらに、原告の家族状況について何らの調査もしておらず、一〇年間大過なく勤務してきた原告を整理解雇する人選とその手続には重大な瑕疵がある。

(3) 仮に同条項により無効であると認定できないとしても、少なくとも本件依命休職処分の発令と同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職(解雇)は原告による労働基準法違反を理由とした残業の拒否や原告による労働基準法違反の申告など、労働者としての権利行使に対しての報復感情に基づく恣意的な解雇であって、解雇権の濫用により無効である。

2  原告の賃金額について

(一) 原告の主張

本件依命休職期間中に被告から支払われた賃金及び賞与の合計金額は金四二〇万九三四二円である(前記第二の二6)ところ、本件依命休職処分がなかったとした場合の平成七年八月一日から平成九年七月三一日までの原告の賃金及び賞与の合計金額は金一〇九七万四一二二円であるから、平成七年八月一日から平成九年七月三一日までの未払賃金及び賞与は金六七六万四七八〇円である。したがって、被告には金六七六万四七八〇円及びこれらの金員のうち平成九年七月分の賃金については支払日の翌日であり平成九年七月分を除くその余の賃金及び賞与については支払日の後であることが明らかな平成九年七月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

また、被告には平成九年八月一日以降毎月二五日限り金三四万二五七八円並びに毎年六月末日限り金七三万六五四三円及び毎年一二月末日限り金六三万九五八二円の支払義務がある。

(二) 被告の主張

争う。

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件依命休職処分及び同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職は無効か)について

1  証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、証拠(略)のうち次の認定に反する部分は採用できず、他に次の認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 被告は、本部を肩書住所地に移した昭和三九年以降本部に二台の公用車(被告の所有に係る車で専ら被告の業務のために使用する車)を配置し、これを運転する二名の運転士がいた。昭和六〇年春当時二名いた運転士のうち一名が死亡した。被告は運転士を補充することにし、当面は運転手派遣会社である大新東株式会社に運転手の派遣を申し込み、同社から運転手として原告が派遣されてきた。原告は昭和五〇年三月から小田急交通株式会社でタクシーの乗務員として車両を運転する業務に従事し、昭和六〇年三月から大新東株式会社において派遣先で車両を運転する業務に従事し始めたばかりの時に被告に派遣され、被告で公用車を運転する業務に従事し始めた。被告は原告の運転手としての仕事ぶりを評価して原告を被告の運転士として採用することにし、原告にその旨を申し出、原告はこれを了承したので、被告は同年一〇月一日付けで原告に対し同人を被告の総務財務局総務財務部付運転士に任命するという辞令を交付して原告を被告の運転士として採用した。被告の運転士としての業務は、被告代表者(以下「組合長」ということがある)を始めとする被告の役員を会議などの場所に公用車で送迎することであり、原告も被告に採用される前後を通じて被告の運転士としての業務に従事していた(証拠略)。

(二) 被告の運転士二名のうち一名が平成三年七月に依願退職したが、被告は運転士を補充せず、公用車も一台にすることにし、被告の本部に配置された公用車は一台、これを運転する運転士は原告一人となった。このとき被告は公用車の使用の優先順位などを取り決めた。原告は平成五年九月に総務財務部付から秘書室付に異動した。異動後は被告の全国評議会などが開催されたときに評議員に渡す会議資料を封筒に詰めたり、受付で会議資料を評議員に渡すなどの作業に従事したこともあったが、右の異動の前後を通じて原告の業務はあくまでも被告の運転士としての業務に従事することであった(証拠略)。

(三) 被告の汽船部、漁船部及び沿海部に所属する組合員(以下「正規組合員」という)数、正規組合員が納める組合費収入、被告の従業員数及び被告の支部機関数の推移は、次のとおりである。第四一年度(昭和六〇年八月一日から昭和六一年七月三一日まで)の組合員数は九万〇六〇一人、組合費収入は四八億七三八六万円(一〇〇〇円単位で切捨て。この項に限り以下同じ)、従業員数は四七五人、支部機関数は六一であり、第四二年度(昭和六一年八月一日から昭和六二年七月三一日まで)の組合員数は八万六一五五人、組合費収入は四五億七五六五万円、従業員数は四九〇人、支部機関数は五九であり、第四三年度(昭和六二年八月一日から昭和六三年七月三一日まで)の組合員数は七万八二四三人、組合費収入は四〇億八四六七万円、従業員数は四五二人、支部機関数は五三であり、第四四年度(昭和六三年八月一日から平成元年七月三一日まで)の組合員数は六万九九一九人、組合費収入は三七億五五八三万円、従業員数は四一〇人、支部機関数は五三であり、第四五年度(平成元年八月一日から平成二年七月三一日まで)の組合員数は六万五〇九一人、組合費収入は三五億八七八〇万円、従業員数は三七一人、支部機関数は五一であり、第四六年度(平成二年八月一日から平成三年七月三一日まで)の組合員数は六万一四七〇人、組合費収入は三五億四九五三万円、従業員数は三六五人、支部機関数は五一であり、第四七年度(平成三年八月一日から平成四年七月三一日まで)の組合員数は五万九〇〇〇人、組合費収入は三四億六二〇二万円、従業員数は三六八人、支部機関数は五〇であり、第四八年度(平成四年八月一日から平成五年七月三一日まで)の組合員数は五万五九五五人、組合費収入は三四億三八三三万円、従業員数は三六四人、支部機関数は四九であり、第四九年度(平成五年八月一日から平成六年七月三一日まで)の組合員数は五万三六八六人、組合費収入は三四億一八三一万円、従業員数は三五四人、支部機関数は四八であり、第五〇年度(平成六年八月一日から平成七年七月三一日まで)の組合員数は五万一七〇八人、組合費収入は三二億九〇一二万円、従業員数は三三六人、支部機関数は四七であり、第五一年度(平成七年八月一日から平成八年七月三一日まで)の組合員数は四万九〇〇八人、組合費収入は三一億三四〇七万円、従業員数は三二八人、支部機関数は四六であり、第五二年度(平成八年八月一日から平成九年七月三一日まで)の組合員数は四万六〇八八人、組合費収入は三〇億二二〇〇万円、従業員数は三二五人、支部機関数は四三である(書証略)。

(四) 日本人船員はいずれも正規組合員であるが、被告は外国人船員を非居住特別組合員としており、外国人船員からも組合費を徴収している。外国人船員が納める組合費収入の推移は、次のとおりである。第四七年度は二億六三二〇万円(一〇〇〇円単位で切捨て。この項に限り以下同じ)であり、第四八年度は三億四八二五万円であり、第四九年度は四億三四四五万円であり、第五〇年度は六億四一三二万円であり、第五一年度は九億五五六七万円であり、第五二年度は一二億二六六三万円である。正規組合員が納める組合費と非居住特別組合員が納める組合費の合計は、第四七年度が三七億二五二二万円(一〇〇〇円単位で切捨て。この項に限り以下同じ)、第四八年度が三七億八六五八万円、第四九年度が三八億五二七六万円、第五〇年度が三九億三一四四万円、第五一年度が四〇億八九七四万円、第五二年度が四二億四八六三万円である(証拠略)。

(五) 被告の予算や決算では外国人船員からの組合費は収入の部の「その他の組合費」に計上されている。外国人船員は毎年増加しており、したがって、外国人船員から納められる組合費も毎年増加しており、一般会計に大きく寄与しつつあるが、外国人船員が今後も被告に組合員としてとどまり続ける保障はないから、被告は外国人船員から納められる組合費が毎年増加して一般会計に大きく寄与しつつある状況について財政上はそれだけ脆弱さが拡大していると考えていた(証拠略)。

(六) 正規組合員が被告に納める組合費収入は、日本人組合員の減少に伴い減収傾向が続いており、被告はこの減収分と経費の不足分を特別会計に蓄積された資金の金利で補いながら、収支バランスを優先課題に財政の健全化に取り組んできたが、厳しい予算管理と経費節減の努力を続けたことにより徐々に収支の改善の実が上がり、第四三年度(昭和六二年八月一日から昭和六三年七月三一日まで)以降は単年度収支で黒字実績が続いていた。ところが、第四七年度(平成三年八月一日から平成四年七月三一日まで)の終了間際である平成四年七月二四日に開催された被告の臨時の第二二四回全国評議会において、被告が資金の運用口として運用している一三二億円のうち特定金銭信託(金銭を信託会社が運用するが、運用方法、対象、処分などは委託者が具体的に指図し、信託会社の裁量はほとんどない金銭信託の一種)資産一七億円に三億六〇〇〇万円の損金が発生していること、信託元本一三億五〇〇〇万円のうち五億八〇〇〇万円がワラントで、経済の推移によってはこれも現実損になることなどが報告された。同評議会は、資金運用に生じた損失の真相と原因を究明するために財政に関する特別委員会を設置した。被告は同年七月金銭の信託損失金として三億六〇六八万一六七九円を支出して前記特定金銭信託に生じた損失を処理したが、これによって第四七年度(平成三年八月一日から平成四年七月三一日まで)における次年度繰越金は一〇億四九四一万〇七八六円となり、これは前年度である第四六年度の次年度繰越金一一億五八二五万七六七八円を下回った。特別委員会は前記資金運用に生じた損失の真相と原因を究明するために調査を行い、同年九月一一日に開催された第二二五回全国評議会において調査の結果を報告した。被告の第五三回定期全国大会が同年一一月一〇日から開催され、第四八年度(平成四年八月一日から平成五年七月三一日まで)総予算および設備計画(案)が同大会に議案として提出された。同議案には前記ワラントのうち第四八年度中に償還期限日を迎える分を処分しこれによって生じる損失を処理するために金銭の信託損失金として三億三〇三二万円、投資有価証券損失金として二七〇〇万円が、それぞれ計上されており、第五三回定期全国大会は同議案を承認した。被告は第四八年度に金銭の信託損失金として三億二七五五万一一六七円、投資有価証券の処分損失金として二六九九万二一九〇円を支出して前記ワラントの処分による損失を処理したが、これによって第四八年度における次年度繰越金は八億一六四二万五一二六円となり、これは前年度である第四七年度の次年度繰越金一〇億四九四一万〇七八六円を下回った(書証略)。

(七) 被告の中央執行委員会は第四八年度の途中である平成五年三月二四日被告の財務委員会に対し「組合財政の再建築はいかにあるべきか」について諮問を行った。同委員会は右の諮問に対し四回にわたり中間答申を行ったが、同年五月二四日に行われた第一次中間答申の中で海員福祉研修会館(ホテル・マリナーズ・コート東京)の管理、運営のあり方並びに同会館を経営する株式会社マリコットサービスの経営合理化、活性化によって独立採算が採れる経営基盤の確立などについて方向を示した。同委員会は同年八月六日第二次中間答申を行い、組合財政の健全化の当面の措置及び中長期的な対策などについて方向付けを行った。具体的には、財政をめぐる環境と問題点として、<1>近年の海運、水産業をめぐる厳しい環境変化のために組合員数が大幅に減少し、組合員の規模縮小は組合活動の基盤となる組合財政にも大きな影響を与えており、組合費収入は第三八年度(昭和五七年八月一日から昭和五八年七月三一日まで)の五二億九〇〇〇万円をピークに減少を続け、第四七年度には三四億四〇〇〇万円まで落ち込んだのに対し、活動に要する支出は第三八年度の四三億七〇〇〇万円から第四七年度の三七億四〇〇〇万円まで減少したにとどまり、組合費収入と支出のバランスが大きく崩れ、そのため近年の組合財政は長年にわたって蓄積してきた争議資金や設備資金などの特別会計の資金を運用し、その利息収入に頼らざるを得ないという構造的な問題を抱えている、<2>加えて、平成四年に明るみに出た資金運用の失敗による損失金処理が向こう二、三年間引き続き発生することが確実となっており、平成五年四月末現在の評価損は一六億二〇〇〇万円となり、組合財政を大きく圧迫している、<3>今後の組合財政を取り巻く情勢は外交部門における日本船の海外流出や円高によって混迷する海運市況、漁船部門における国際漁業規制の強化など、国際的な環境変化や構造的な問題を抱え、組合員の雇用環境は依然として厳しい状況にあり、さらに、急速に進展する組合員の高齢化や日本人船員の極少化など、依然として構造的な厳しさが続き、組合費収入の動向も引き続き極めて厳しい状況が続くと見込まれるのであって、こうした今後の情勢の変化に組合財政が弾力的に対応していくためには組織の活力を損なわないような形で経費の徹底した節減合理化に努め、早急に財政の健全化を図ることが重要であり、これらの努力にもかかわらず財政の健全化が図れない場合は、組合費の見直しについても検討する必要がある、という認識を示した上、財政健全化の当面の措置として、<1>特別会計繰り入れ資金の一部を一般会計資金として繰り入れること、<2>本部各部門及び支部機関における各種活動や施策について優先順位により厳しい選択を行うとともに、情勢の推移に即応した財源の重点的、効率的配分を行うよう措置すること、<3>未収組合費の回収、<4>多額の評価損を抱えて機能していない運用資金を向こう三年ほどを目処に組合財政の運営に支障を来さない範囲で順次処分することを答申し、中長期的対策として、<1>最重要課題である組織拡大のための対策予算の財源の確保に重点を置く一方で、時代の要請に即応して組合活動のあり方や既存の制度、施策などについて見直しを行い、簡素にして効率的な産業別単一組織の実現を図ること、<2>組織の機構改革と合理化のための特別委員会を設け、本部機構及び支部機関の統廃合による機能の効率化を図り、人件費を含む一般管理費の大幅な削減を行うなど、徹底した要員及び諸経費のスリム化を図ること、<3>機構改革と合理化の実施によってもなお厳しい財政運営を迫られる場合には組織内(組合員)の理解と協力を得て三年後を目処に組合費の改定を求めることを答申した。被告の第五四回定期全国大会が同年一一月九日から開催され、第二次中間答申が同大会において報告されて承認された。第四九年度(平成五年八月一日から平成六年七月三一日まで)総予算および設備計画(案)が同大会に議案として提出されたが、同議案には前記ワラントのうち第四九年度中に償還期限日を迎える分を処分しこれによって生じる損失を処理するために金銭の信託損失金として二億三九五〇万円が計上されており、第五四回定期全国大会は同議案を承認した。被告は第四九年度に金銭の信託損失金として二億三七二八万六八四九円を支出して前記ワラントの処分による損失を処理したが、これによって第四九年度における次年度繰越金は一一億六八九八万五五八九円となり、これは前年度である第四八年度の次年度繰越金八億一六四二万五一二六円を上回った。財務委員会は第四九年度の途中である平成六年二月二四日第三次中間答申を行い、多額の評価損を抱える投資有価証券の切替えの方法について具体的な答申を行った。被告はこの答申に基づいて投資有価証券の切替え処理を始めた(書証略)。

(八) 第二次中間答申が出された後に開かれた第五四回定期大会は組織の機構改革と執行体制の効率化に取り組む方針を決定し、この方針に基づいて平成六年二月執行体制効率化検討委員会が設置された。中央執行委員会は右同月執行体制効率化検討委員会に対し組織の強化・拡大と執行体制の活性化について諮問し、同委員会は執行体制効率化実施大綱を取りまとめ、第五〇年度(平成六年八月一日から平成七年七月三一日まで)が始まったばかりの同年九月六日に答申した。執行体制効率化実施大綱には、執行体制効率化を実現するための具体的な諸策として、<1>組織拡大活動の強化、<2>本部機構の再編、<3>常任役員の定員の削減など、<4>支部機関の統廃合、<5>従業員の総定員管理、<6>本・支部における従業員配置、<7>執行体制の強化と従業員の資質向上、<8>業務の改善、<9>経費節約と組合資産の有効活用、<10>組合費の改定などが挙げられており、従業員の総定員管理として、適正な従業員規模については人件費の総額は総収入から特別会計への必要繰入額及び過去の実績に基づく必要繰越金額を控除した残額(一般経費)のほぼ六〇パーセント以内とすること、今後三年間に見込まれる退職による従業員の定年退職などによる自然減少を踏まえ、執行部員の若返りを図りつつも、当面の雇用対策として採用調整や一定年齢に達した外部出向者と現役との交代を促進することによって、今後三年間に一〇パーセント程度の人員の縮小を先行実施することとされ、また、本・支部における従業員配置として、執行部員については役員、外部出向者及びオルグ要員を除いた総数のうち本部に二五パーセント(現在は二八パーセント)、支部に七五パーセントを基本として配置し、事務職員については本・支部の各セクションにおける業務の実態を踏まえて必要とする適正配置を行うこととされている。なお、執行体制効率化検討委員会における検討の過程で選択定年制や退職勧奨制度の導入も検討されたが、定年退職などの自然減少と採用抑制という手法で雇用量の調整を行うことにより当面対応可能であるという見通しが得られたので、今回は導入を見送ることとした(書証略)。

(九) 第五五回定期全国大会が同年一一月八日から開催され、前記執行体制効率化検討委員会の答申を盛り込んだ第五〇年度活動方針が決定された。第五〇年度(平成六年八月一日から平成七年七月三一日まで)総予算および設備計画(案)が同大会に議案として提出されたが、同議案にはもはや前記ワラントの処分によって生じる損失を処理するために金銭の信託損失金は計上されていない。被告の第五〇年度における次年度繰越金は一五億二四六八万九〇七七円となり、これは前年度である第四九年度の次年度繰越金一一億六八九八万五五八九円を上回った(書証略)。

(一〇) 投資有価証券の切替え処理は日経平均株価水準を指標として平成六年六月から行われてきたが、平成七年に入ると、円の急騰など経済環境の悪化により平均株価水準は低迷を続け、そのため切替え処理がほとんど進展しない状況になってしまった。財務委員会は第五〇年度(平成六年八月一日から平成七年七月三一日まで)の途中である平成七年四月二五日に第四次中間答申を行い、その中で、同年三月末日現在の被告における組織会社在籍組合員数はついに四万八九八九人となり、前年同月比で二五六五人の減少となっており、そのため被告の財政は第五〇年度第一・四半期及び第二・四半期の決算において正規組合員が納める組合費収入が近年初めて予算の収入見込額を下回るという深刻な状況に立ち至っていること、急激な円高、荷主産業のリストラ攻勢、急速に進展する組合員の高齢化など、組合員の雇用情勢は依然として厳しく、その影響は外航海運のみならず内航、漁船、沿海部門にも大きな打撃を与え始め、組織拡大への取組はますます困難が予想され、また、市場金利低下は資金運用益の急減を来たし、株価低迷は投資有価証券類の元本保証商品への切替えを困難にしており、このような状況に至っては従来の延長線で部分的な手直しにより引き続き健全な財政運営を確保し、組織機構を維持していくことは困難な状況に立ち至っていることを深く認識しなければならないこと、そこで、予想以上に早まっている組織減少と今後の厳しい財政事情にかんがみ、従来にも増して徹底した経費の洗い直しに取り組む一方、既存の活動及び執行の体制のあり方について見直しを行うなど、経費の徹底した節減合理化に努め、簡素にして効率的な組織機構の実現を図るべきであり、そのために、<1>規約改正検討委員会の早急な設置、<2>経済環境の激変にかんがみ投資有価証券の切替え処理基準の基本的な見直しと切替え処理の早期完了、<3>業務点検チームの検討の促進、<4>有能な人材(若年後継者)の補充と育成に着手し、執行部員の年齢構成の早急な是正、<5>本部機構の再編及び支部機構の統廃合による諸経費の節減合理化、併せて常任役員の公用車の廃止の検討を答申している。なお、常任役員の公用車の廃止は第四回中間答申において唐突に提案されたものではなく、以前から話題には上っていたのであり、原告も平成五年九月七日に開催された本部機構責任者会議の席上で本部役員の公用車の廃止を求めた委員がいたことを聞かされていた(書証略)。

(一一) 第二三九回全国評議会が同年五月二四日に開催され、<1>常任役員の役割分担の見直し、業務機構改革を行うための規約改正検討委員会の設置、<2>業務点検チームの検討を促進し、現段階における簡素にして効率的な定常業務のあり方と実現のための業務推進機構の構築、<3>執行部員、事務職員の資質向上と少数精鋭化、有能な人材(若年の後継者)の補充と育成の着手、併せてそれに応じた労働条件・環境の改善を決定し、<4>組織規模を勘案し、本部機構の再編及び支部機構の統廃合による諸経費の節減合理化を図り、併せて常任役員の公用車の廃止を検討することを承認した。同年七月一二日に開催された第二二回中央執行委員会は、第二三九回全国評議会の承認に基づいて執行体制の強化と諸経費の節減合理化の一環として同年八月一日をもって公用車を廃止することを決定した(書証略)。

(一二) 中央執行委員会は同年七月一二日右の決定に基づいて口頭で原告に対し公用車廃止の決定を通知し、翌同月一三日「公用車廃止に伴う貴殿の処遇について(通知)」と題する書面により原告に対し本件旧規定五条二項(2)号に基づいて同年八月一日から平成八年七月三一日まで原告を依命休職員とすること(本件依命休職処分)を通知した。原告は昭和二〇年二月一三日生まれであり、本件依命休職処分当時五〇歳であった。被告は、本件依命休職期間の満了後に原告を退職させ、本件依命休職期間中は原告を自宅待機として再就職活動に専念してもらうことにした。また、被告も本件依命休職期間中の原告の再就職先のあっせんに努力するつもりであったので、同年八月二日付けで原告に対し「履歴書送付について(お願い)」と題する書面を送付して就職あっせんのための履歴書の送付を求めたが、原告から履歴書が送付されてこなかった。そこで、被告は再度原告に対し平成八年一月一六日付けで履歴書の送付を求めたが、原告から履歴書は送付されてこなかった。被告は本件依命休職処分を発令するに当たって原告の意向を確認することなどせずに突然本件依命休職処分を発令したのであり、原告は本件依命休職処分は不当な処分であると考えていたので、本件依命休職期間を再就職活動に専念する期間としては理解していなかったし、就職あっせんのための履歴書の送付にも応じる必要はないと考えていた(書証略)。

(一三) 被告の常任役員は公用車の廃止を決定した後は地下鉄やバスなどの公共交通機関の外タクシーを利用している(書証略)。

(一四) 被告代表者が昭和六三年一一月に中西組合長に代わってからは原告の運転士としての業務の中で中西組合長の都合による不定期な深夜業務が多くなってきた上、平成三年に運転士が一人辞めて後任を補充しないことになった後は、複数の役員から公用車の運転を頼まれることが度重なるようになってきたので、原告は指揮系統を統一して欲しいと求めたが、前記のとおり公用車の使用優先順位などを取り決めただけで、実態はそれほど改善されなかった。原告は、平成四年七月二四日に開催された全国評議会で資金運用に損失が生じた件が明らかにされた後である同年一一月に、当時原告が所属していた総務財政局の片岡局長に対し総務財務局の局員全員を集めて右の件について説明会を開催するよう申し入れ、右の要請に基づいて同年一二月に説明会が開催され、原告はその説明会に出席して説明を求めるなどした。原告は平成五年一月に開催された総務財政局全体会議において自らの過重労働の改善と女子事務職員の処遇における男女差別の改善を強く求め、同年四月総務財政局長に対し本件旧規定に基づいて苦情申立てをし、同年八月一一日に開催された中央執行委員会は原告の苦情申立てを審議するため苦情処理委員会を設け、同委員会は原告などから事情を聴取した結果を踏まえて審議し、原告に対し、運転士である原告を総務部から中執秘書室に移すこと、原告に公用車の運転を命ずる指揮系統を一本化すること、公用車の使用の優先順位を改め、原告が多忙時には過労とならないよう労務管理に配慮することなどを回答するとともに、総務財政局長以下を訓告とした。被告は平成六年五月財政の建て直しと将来に向けた活性化を理由に、被告の従業員規定の見直し(案)を発表したが、原告はこの規定の変更が一方的であると考え、改訂案についての説明会を設けるよう求め、同年六月上旬ころ説明会が開かれた。原告は同年八月被告に対し被告内の合理化問題について従業員に直接関係する重要な事案を秘密的に行っていないで公表すべきであると申し入れた。原告は平成七年二月時間外・休日労働に関する三六協定書の有無を知るために被告に対し三六協定書の写しを交付するよう求めたところ、被告の回答から三六協定書がないことが判明したので、被告の所在地を管轄する三田労働基準監督署において三六協定がないのに一日八時間一週四〇時間を超える労働が労働基準法に違反していることなどを確認した上、同月下旬から時間外・休日労働を断るようにした。原告は同年四月一〇日三田労働基準監督署に対し被告が労働基準法に違反していることを申告し、三田労働基準監督署の労働基準監督官が右同月事実関係の調査を開始し、その後労働基準法違反で被告を送検した(証拠略)。

(一五) 被告の第五一年度(平成七年八月一日から平成八年七月三一日まで)における次年度繰越金は二〇億三一七八万二八四五円となり、これは前年度である第五〇年度(平成六年八月一日から平成七年七月三一日まで)の次年度繰越金一五億二四六八万九〇七七円を上回った。平成六年六月から進めていた投資有価証券の切替え処理は日本電信電話株式会社の株式五・一株を除いて平成九年六月をもって完了した(書証略)。

2  以上の事実を前提に、本件依命休職処分及び同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職が無効であるかどうかについて判断する。

(一) 本件旧規定五条二項(2)号は「用務員を除く組合従業員が満50才以上で配置上止むを得ないと認められる者は、1カ年以内の範囲で中央執行委員会の決定により依命休職員とすることができる」と規定し(前記第二の二4(二))、本件旧規定一〇条は「組合従業員の退職」という表題の下に一項(2)号において「依命休職期間が満了したとき」と規定しており(前記第二の二4(四))、右の各規定によれば、被告の中央執行委員会が用務員を除く組合従業員で五〇歳以上の者について配置上止むを得ないと認めて依命休職員とする決定をしその決定に係る依命休職期間が満了した時点で依命休職員とされた者と被告との間で締結した雇用契約の終了という効果が生ずるというのであるが、中央委員会が一方的に「配置上止むを得ない」と認めた者について依命休職員にするという決定をしてから一定期間満了時に依命休職員とされた者と被告との雇用契約が終了するという点に着目すれば、本件旧規定五条二項(2)号に基づく依命休職処分及び同処分に係る依命休職期間の満了による退職は、被告の従業員で余剰人員となった者についてその削減を目的として一定の猶予期間を置いてこれを解雇するということを意味することになり、いわば解雇の実質を有するというべきである。そうすると、被告の従業員を依命休職員とするときの要件である「配置上止むを得ないと認められる」場合とは、依命休職員とされた者を被告の組織内において配属すべき適当な配属先がなく、そのため被告がその者との間で締結した雇用契約を一定期間の満了時に終了させることがやむを得ないと認められる場合をいうと解するのが相当である。そして、本件旧規定五条二項(2)号に基づく依命休職処分及び同処分に係る依命休職期間の満了による退職がいわば解雇の実質を有するものである以上、中央委員会が被告の従業員を依命休職員とした決定の効力を判断するに当たっては解雇に関する法理に則ってこれを判断すべきであるということになる。

(二) 本件において被告が原告に対し本件依命休職処分を発令した経過は、次のとおりである。すなわち、原告は昭和六〇年一〇月一日付けで被告の総務財務局総務財務部付運転士に任命され、以後専ら被告の運転士としての業務に従事していた(前記第三の一1(一)、(二))が、平成七年五月二四日に開催された第二三九回全国評議会において常任役員の公用車の廃止を検討することが承認され、同年七月一二日に開催された第二二回中央執行委員会は第二三九回全国評議会の承認に基づいて執行体制の強化と諸経費の節減合理化の一環として同年八月一日をもって公用車を廃止することを決定し(前記第三の一1(一一))、中央執行委員会は同年七月一二日右の決定に基づいて口頭で原告に対し公用車廃止の決定を通知し、翌同月一三日「公用車廃止に伴う貴殿の処遇について(通知)」と題する書面により原告に対し本件旧規定五条二項(2)号に基づいて同年八月一日から平成八年七月三一日まで原告を依命休職員とすること(本件依命休職処分)を通知した(前記第三の一1(一二))というのであり、右の事実によれば、被告が原告に対し本件依命休職処分を発令したのは、要するに、それまで原告が担当していた公用車の運転という業務が公用車の廃止によって消滅したが、担当業務が消滅した原告について被告の組織内において新たに配属すべき適当な配属先がなく、そのため原告との雇用契約を一定期間の満了時に終了させることがやむを得ないと認められたことによるものというべきである。

(三) そこで、本件依命休職処分の発令当時において公用車の運転という担当業務が消滅した原告について被告の組織内において新たに配属すべき適当な配属先がなく、そのため原告と被告との間で締結した雇用契約を一定期間の満了時に終了させることがやむを得ないと認められるかどうかについて検討する。

(1)ア 原告は、本件依命休職処分当時の被告には原告を依命休職員とすることを決定しその決定から一年後に原告を退職させなければならないほどの経営危機が存在していたわけではないのであるから、本件依命休職処分及び同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職がいわば解雇の実質を有するものとして、あたかも解雇権の濫用として無効であると主張する。

イ しかし、

(ア) 労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合体である労働組合がある部門において発生した余剰人員を消滅しようとする場合に、その余剰人員の削減に労働組合としての組織の維持、運営上の必要性があり、かつ、労働組合としての組織の維持、運営上の必要性が労働組合としての組織の維持、運営上の観点から合理性を有するものであれば、余剰人員の削減を目的としてその余剰人員についてする解雇(本件について言えば、これは解雇ではなく、解雇の実質を持つ本件旧規定五条二項(2)号に基づく依命休職処分及び同処分に係る依命休職期間の満了による退職というべきであるが、以下では本件旧規定五条二項(2)号に基づく依命休職処分及び同処分に係る依命休職期間の満了による退職の趣旨で解雇ということがみる)は一応合理性を有するものと認められる。そして、労働組合が現に財務体質の悪化などによる組織解体の危機に瀕している場合には余剰人員の削減の緊急の必要性があるわけであるから、このような場合には余剰人員の削減についての労働組合としての組織の維持、運営上の必要性を肯定することができ、また、将来組織解体の危機に陥る危険を避けるために今から労働組合の財務体質の改善、強化を図っておく場合も、労働組合が生き延びることを目的としているのであるから、このような場合においても余剰人員の削減についての労働組合としての組織の維持、運営上の必要性を肯定することができるが、さらに将来においても組織解体の危機に陥ることが予測されない労働組合が単に余剰人員を整理して財政の健全化を図るというだけであっても、労働組合としての組織の維持、運営の観点からそのことに合理性があると認められるのであれば、余剰人員の削減に労働組合としての組織の維持、運営上の必要性を肯定することができる。なぜなら、労働組合には労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合体として組織の維持、運営について何が必要であるかを自己の責任において判断し決定する自由があり、その判断や決定に関する危険を最終的に負担するのは労働組合自身であるから、労働組合が自己の責任において労働組合としての組織の維持、運営上の論理に基づいて労働組合としての組織の維持、運営上の必要性の有無を判断するのは当然のことであり、また、その判断には広範な裁量権があるというべきだからである。

前記の原告の主張は、要するに、労働組合である被告が余剰人員の削減を目的としてその余剰人員についてする解雇の理由としては、人員の削減をしなければならないほどの労働組合としての組織の維持、運営上の危機が存在することを要するというものであるが、右の説示に照らし採用できない。

(イ) ある部門の余剰人員の削減に労働組合としての組織の維持、運営上の必要性があると認められるには、当該労働組合の従業員を削減することが不可避であることが必要であると解される。なぜなら、例えば、ある部門の余剰人員を他の部門に配転することが当該従業員の職種、能力の点で可能であり、しかも、その配転によって配転先の部門に余剰人員が生じないような場合には、労働組合の立場を考えても、解雇という手段によって従業員の削減をする必要はなく、結局のところ、余剰人員の削減の必要性があるということはできないからである。

(ウ) ある部門の余剰人員の削減についての労働組合としての組織の維持、運営上の必要性が労働組合としての組織の維持、運営上の観点から合理性を有すると認められるには、解雇によって達成しようとする労働組合としての組織の維持、運営上の目的とこれを達成するための手段である解雇ないしその結果としての失職との間に均衡を失しないことが必要であると解される。なぜなら、労働組合といえども、終身雇用制ないし年功序列制を採用している場合には、当該労働組合で勤務する従業員がある一定の年齢(例えば、定年など)に達するまで当該労働組合に勤務し続けることを期待することには合理性があるものと認められ、したがって、そのような期待は法的に保護すべきものであるというべきであるところ、解雇はこれによって雇用関係を終了させるものであって、被解雇者の多くは当面の収入を失うことになるわけであるから、労働者にとって通常は極めて重大な打撃となることは否定できず、したがって、余剰人員の削減を解雇によって達成しようとしている労働組合としての組織の維持、運営上の目的が余りにもささいであるときは解雇という手段によって従業員を失職させるという結果を生じさせることとの間の均衡を失しているといわざるを得ず、そのような場合に余剰人員の削減についての労働組合としての組織の維持、運営上の必要性が労働組合としての組織の維持、運営上の観点から合理性を有するということはできないのであって、解雇権の行使は濫用に当たるといわざるを得ないからである。

そして、解雇によって達成しようとする労働組合としての組織の維持、運営上の目的とこれを達成するための手段である解雇ないしその結果としての失職との間に均衡を失していないかどうかは、余剰人員の削減によって達成しようとしている労働組合としての組織の維持、運営上の目的との関係で決せられることというべきであるが、例えば、労働組合が現に組織解体の危機に瀕している場合には余剰人員の削減の緊急の必要性があるわけであるから、このような場合には解雇が余剰人員の削減についての労働組合としての組織の維持、運営上の目的との間で均衡を失しているということはできず、また、将来組織解体の危機に陥る危険を避けるために今から財務体質の改善、強化を図って行う場合も、労働組合が生き延びることを目的としているのであるから、これに代わる次善の策を容易に想定しうるものでない限り、均衡を失するとはいえないが、将来においても組織解体の危機に陥ることが予測されない労働組合が単に余剰人員を整理して財政の健全化を図るために行う解雇については余剰人員の削減の緊急の必要性はないのであるから、通常は業種の拡大を図ることや今後数年間の自然減を待つことによって余剰人員を吸収すれば、結局は労働組合の組織としての維持、運営上の目的を達することができるのであって、そのような方法による余剰人員の吸収が不可能であるような場合を除いては、目的と手段・結果との間の均衡を欠くというべきである。

(エ) 以上によれば、ある部門の余剰人員の削減に労働組合としての組織の維持、運営上の必要性があり、かつ、労働組合としての組織の維持、運営上の必要性が労働組合としての組織の維持、運営上の観点から合理性を有すると認められる場合には、余剰人員の削減を目的としてその余剰人員についてする解雇は一応合理性を有するものというべきである。

ウ 本件において、

(ア)<ア> 正規組合員が被告に納める組合費収入は、正規組合員の減少に伴い、第三八年度(昭和五七年八月一日から昭和五八年七月三一日まで)をピークに減収が続いており、被告はこの減収分と経費の不足分を特別会計に蓄積された資金の金利で補いながら、収支バランスを優先課題に財政の健全化に取り組んできたが、厳しい予算管理と経費節減の努力を続けたことにより徐々に収支の改善の実が上がり、第四三年度(昭和六二年八月一日から昭和六三年七月三一日まで)から第四六年度(平成二年八月一日から平成三年七月三一日まで)までは単年度収支で黒字実績が続いていたが、第四七年度(平成三年八月一日から平成四年七月三一日まで)の終了間際である同月二四日に開催された被告の臨時の第二二四回全国評議会において資金運用に損失が生じていることが判明し、第四七年度から第四九年度(平成五年八月一日から平成六年七月三一日まで)までの三か年度にわたり右の損失を処理したが、単年度に赤字を計上したのは第四七年度及び第四八年度だけであり、第四九年度以降には黒字を計上していたこと(前記第三の一1(三)、(六)、(七)、(九)、(一五))、被告の正規組合員が納める組合費が減収し続けるという状況の中で、被告が右の損失を処理したにもかかわらず、単年度に赤字を計上したのは第四七年度と第四八年度にとどまり、第四九年度以降は単年度に黒字を計上したのは、被告の非居住特別組合員数の増加に伴い非居住特別組合員が納める組合費が年々増加していて一般会計に寄与しつつあるという状況があるためであるが、非居住特別組合員を構成する外国人船員は今後も被告の組合員としてとどまり続ける保障はないから、非居住特別組合員が納める組合費が年々増加して一般会計に寄与しつつあるという状況は財政上はそれだけ脆弱さが拡大しているというべきであること(前記第三の一(五)1)、ところで、被告の中央委員会から被告の財政再建策について諮問された財務委員会は、平成五年八月六日、正規組合員から納められる組合費の減収分と経費の不足分を特別会計に蓄積された資金の金利で補うという被告の財政構造は不健全であってこれを立て直す必要があるという考えの下に、財政健全化の当面の措置と中長期的対策について第二次中間答申を行ったこと(前記第三の一1(七))、以上の事実が認められる。

これらの事実によれば、被告の財政構造は、正規組合員から納められる組合費の減収分と経費の不足分を特別会計に蓄積された資金の金利で補うというもので、不健全であるというべきであり、また、市場金利の低下によって特別会計に蓄積された資金の金利で目減りした分を年々増加する非居住特別組合員から納められる組合費で補うという点が近年見られるようになっており、それだけ被告の財政の脆弱さが拡大しているというべきであるが、被告の資金運用の失敗による損失の処理のために第四七年度と第四八年度は単年度に赤字が見られたものの、第四九年度以降は単年度に黒字を計上しているのであって、一般会計における収入の中に非居住特別組合員から納められる組合費が占める割合が増大することは財政上は適当ではないものの、非居住特別組合員から納められる組合費が今後数年間で激減することが予想されるという状況もない(本件全証拠に照らしても、そのような事実を認めることはできない)のであって、そうすると、被告の財政構造は不健全であり脆弱であるというべきであるものの、被告が組織解体の危機に瀕しているとはいえないし、近い将来組織解体の危機に陥る危険があるともいえないのであって、少なくとも当面は被告に組織解体の危機に陥る危険があるということはできないのであり、ただ早急に財政の健全化を図る必要があることは認められる。

<イ> 財務委員会が行った第二次中間答申には、中長期的対策として、組織の機構改革と合理化のための特別委員会を設け、本部機構及び支部機関の統廃合による機能の効率化を図り、人件費を含む一般管理費の大幅な削減を行うなど、徹底した要員及び諸経費のスリム化を図ることが盛り込まれ、この答申が出された後に開かれた第五四回定期大会は組織の機構改革と執行体制の効率化に取り組む方針を決定し、この方針に基づいて平成六年二月に設置された執行体制効率化検討委員会は、同年九月六日、執行体制効率化を実現するための具体的な諸策を執行体制効率化実施大綱に取りまとめたが、この大綱には当面の雇用対策として採用調整や一定年齢に達した外部出向者と現役との交代を促進することによって、今後三年間に一〇パーセント程度の人員の縮小を先行実施することが盛り込まれたこと(前記第三の一1(七)、(八))、被告は第二次中間答申に基づいて平成六年六月以降多額の評価損を抱えた投資有価証券の切替え処理を始めたが、平成七年に入ると、円の急騰など経済環境の悪化により平均株価水準が低迷を続けたため切替え処理がほとんど進展しない状況になってしまい、金利が大幅に低下して資金運用益の急減を来たした上、平成七年三月末日現在の被告における組織会社在籍組合員数はついに四万八九八九人となり、前年同月比で二五六五人減少し、そのため被告の財政は第五〇年度(平成六年八月一日から平成七年七月三一日まで)第一・四半期及び第二・四半期の決算において正規組合員が納める組合費収入が近年初めて予算の収入見込額を下回るという事態に陥ったが、財務委員会は、そのような状況の下では、従来の延長線で部分的な手直しにより引き続き健全な財政運営を確保し、組織機構を維持していくことは困難な状況に立ち至っているというべきであるとして、同年四月二五日、予想以上に早まっている組織減少と今後の厳しい財政事情にかんがみ、従来にも増して徹底した経費の洗い直しに取り組む一方、既存の活動及び執行の体制のあり方について見直しを行うなど、経費の徹底した節減合理化に努め、簡素にして効率的な組織以降の実現を図るべきであり、そのための一つの方策として常任役員の公用車の廃止の検討を答申したこと(前記第三の一1(一〇))、この答申後の同年五月二四日に開催された第二三九回全国評議会は常任役員の公用車の廃止を検討することを承認し、中央執行委員会は同年七月一二日右の承認に基づいて執行体制の強化と諸経費の節減合理化の一環として同年八月一日をもって公用車を廃止することを決定し、同年七月一三日公用車の運転を担当していた原告に対し本件依命休職処分を発令したこと(前記第三の一1(一)、(二)、(一一)、(一二))、以上の事実が認められる。

これらの事実に右<ア>で認定、説示したことも併せ考えると、被告は早急に財政の健全化を図ることを目的として諸政策を実施する中でその一環として公用車を廃止することを決め、それに伴い公用車の運転を担当していた原告に対し本件依命休職処分を発令したというべきである。そして、被告の財政構造が前記のとおりであることに加えて、本件依命休職処分を発令する契機となった財務委員会の第四次中間答申が出される直前に起こった諸事情、すなわち、円の急騰など経済環境の悪化による平均株価水準の低迷のため投資有価証券の切替え処理がほとんど進展しない状況になっていたこと、金利が大幅に低下して資金運用益の急減を来たしたこと、平成七年三月末日現在の被告における組織会社在籍組合員数は前年同月比で二五六五人減少し、そのため被告の第五〇年度(平成六年八月一日から平成七年七月三一日まで)第一・四半期及び第二・四半期の決算において正規組合員が納める組合費収入が近年初めて予算の収入見込額を下回ったことも併せ考えると、本件依命休職処分の発令の当時において被告の財政の健全化を図ることは急務であったというべきであり、被告の財政構造が前記のとおりである以上、被告の財政の健全化それ自体については労働組合としての組織の維持、運営上の必要性を肯定することができ、また、そのことは労働組合としての組織の維持、運営上の観点から合理性を有すると認められる。

ところで、本来被告の財政は被告の組合員(正規組合員のみならず非居住特別組合員も含む)が納める組合費によって賄われるべきであることに照らせば、被告の正規組合員の減少に伴って被告の組合員(正規組合員のみならず非居住特別組合員も含む)が納める組合費が減少し続けるという事態が続いているとすれば、そのような状況の下では被告の組織の内容や規模などを組合員が納める組合費の額に見合ったものに縮小すべきであるという考えそれ自体は正当として是認することができるところ、収支の改善の実が上がり初めて単年度で黒字を計上した第四三年度に正規組合員が納めた組合費だけを見ると、四〇億八四六七万円(一〇〇〇円単位で切捨て)であった(前記第三の一1(三))のに対し、第四七年度から第五二年度までに正規組合員のみならず非居住特別組合員が納めた組合費は、それぞれ三七億二五二三万〇九七九円、三七億八六五九万六八二七円、三八億五二七七万六五五七円、三九億三一四五万三三二一円、四〇億八九七五万四四四一円、四二億六一五四万一八三九円であり(前記第三の一1(四))、右によれば、第四七年度以降の被告の正規組合員及び非居住特別組合員が納める組合費は毎年増加し、第五一年度及び第五二年度にそれぞれ被告の正規組合員及び非居住特別組合員が納めた組合費は第四三年度に正規組合員が納めた組合費の金額を上回る事態となっているのであって、そうすると、第四三年度の非居住特別組合員が納めた組合費の金額は不明であるものの、少なくとも第四三年度と比較する限りは第五一年度(本件依命休職期間)及び第五二年度において被告の組織の内容や規模などを組合員が納める組合費の額に見合ったものに縮小するという意味において被告の財政の健全化を図る目的で経費の節減を図る必要性があったとは認め難い。

しかし、第四七年度以降も一貫して被告の正規組合員数は減少し続けており、被告が正規組合員を新規に開拓してその数を増加させることは極めて困難な状況に置かれていること、第五〇年度の途中である平成七年に入ると、被告の収入の一翼を担う特別会計に蓄積された資金の金利は市場金利の低下によって急減してしまっていること、それにもかかわらず、第五一年度及び第五二年度に被告の正規組合員及び非居住特別組合員が納める組合費が第四三年度に正規組合員が納めた組合費の金額を上回る事態となったのは、第四七年度以降非居住特別組合員数が急激に増加しており、殊に第五一年度及び第五二年度に大幅に増加したためであると考えられること、非居住特別組合員数の増加は被告の財政構造の改善及び被告の財政の脆弱さの改善を図るという意味における被告の財政の健全化という観点からは望ましいことではないこと、以上の点に照らせば、第五一年度(本件依命休職期間)及び第五二年度において被告の財政構造の改善及び被告の財政の脆弱さの改善を図るという意味における被告の財政の健全化を図る目的で経費の節減を図る必要性はあったものと認められる。そして、被告が行った経費の節減の措置が被告の財政構造の改善及び被告の財政の脆弱さの改善を図るという意味における被告の財政の健全化を図る目的でされたものとして必要性や合理性があると認められるかどうかについては、正規組合員数や正規組合員が納める組合費の額に着目してこれを判断すべきである。

第五〇年度が終わる間際の平成七年七月に決定された公用車の廃止は前記のとおり被告の財政の健全化を図ることが急務であった状況の下において被告の財政構造の改善及び被告の財政の脆弱さの改善を図るという意味における被告の財政の健全化を図ることを目的として実施した経費の節減合理化の諸政策の一つであるというのであり、前記認定の公用車の廃止が決定された際の被告を取り巻く状況も併せ考えれば、被告が平成七年七月に公用車の廃止を決定したことには合理性があると認められ、したがって、公用車の廃止については労働組合としての組織の維持、運営上の必要性を肯定することができる。

<ウ> ところで、被告は公用車を廃止することを決めたことに伴い公用車の運転を担当していた原告に対し本件依命休職処分を発令したというのであるから、本件依命休職処分についても労働組合としての組織の維持、運営上の必要性を肯定することができ、また、そのことは労働組合としての組織の維持、運営上の観点から合理性を有すると認められるかどうかが問題となるので、これについて検討する。

本件において、被告は昭和六〇年春当時二台の公用車を保有し運転士として二名を雇用していたが、そのころ運転士一名が死亡したためこれを補充する必要があったこと、被告は死亡した運転士の補充としてとりあえず運転手派遣会社から運転手を派遣してもらうことにしたが、派遣会社から派遣されてきた原告の運転手としての仕事ぶりを評価して原告を被告の運転士として採用することにしたこと、被告は同年一〇月一日付けで原告を被告の運転士として採用したが、その際に原告に交付した辞令には原告を被告の総務財務局総務財務部付運転士に任命すると書かれていたこと(以上、前記第三の一1(一))、本件旧規定二条二項(2)号は運転士について「もっぱら組合の車輛の運転に従事するために採用された者」と定めていること(前記第二の二4(二))、被告に採用された後の原告は被告の運転士としての運転の業務以外の業務に従事することもなくはなかったが、原告の業務はあくまでも被告の運転士として運転の業務に従事することであったこと(前記第三の一1(一)、(二))、以上の事実が認められ、これらの事実を総合すれば、被告は原告を被告の運転士としての業務に従事させる目的で被告の運転士として採用したものと認められ、したがって、原告の担当業務は公用車の運転であるというべきである。

右によれば、原告の担当業務は公用車の廃止によって消滅したというべきであるが、他方において、原告はあくまでも公用車の運転を担当する目的で被告に雇用されたのであるから、原告と被告との間で締結された雇用契約は原告が被告に提供すべき労務の種類(原告が被告に提供すべき労務の種類を以下「職種」という)を限定しているのであって、したがって、被告には原告が被告に提供すべき労務の種類を一方的に変更する権限(配転命令権)はないというべきである。

そうすると、原告の担当業務が消滅した以上、原告と被告との間で締結された雇用契約を存続させるべき理由はないというべきであり、公用車を廃止すれば、被告は原告がその担当業務を失ったことを理由に被告との間で締結された雇用契約を打ち切ろうとすることが考えられるのであって、いわば公用車の廃止は原告の失職を招来するものというべきであるところ、被告の財政構造の改善及び被告の財政の脆弱さの改善を図るという意味における被告の財政の健全化を直接の目的として公用車の廃止が行われた以上、公用車の運転を担当していた原告をその担当業務の消滅を理由にそのまま失職させることは右の意味における被告の財政の健全化に資するものということができるから、被告が本件依命休職処分をしたことには合理性があると認められ、したがって、本件依命休職処分については労働組合としての組織の維持、運営上の必要性を肯定することができる。

<エ> ところで、原告は、本件依命休職処分の発令と同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職が原告が被告の労働基準法違反を申告などしたことへの報復を目的とした不利益取扱いであり、労働基準法一〇四条二項により無効であるとか、原告による労働基準法違反を理由とした残業の拒否や原告による労働基準法違反の申告など、労働者としての権利行使に対しての報復感情に基づく恣意的な解雇であって、解雇権の濫用により無効であるなどと主張しているが、仮に被告による公用車の廃止が原告の主張するように原告に対する報復を意図して原告を被告から排除する目的で行われたとすれば、そもそも被告による公用車の廃止について労働組合としての組織の維持、運営上の必要性を肯定することができ、また、そのことは労働組合としての組織の維持、運営上の観点から合理性を有すると認められるということはできないのであって、そうであるとすると、被告による公用車の廃止が原告の主張するような目的で行われたかどうかが問題となる。

原告は平成四年七月二四日に開催された全国評議会において資金運用に損失が生じた件が明らかにされた後である同年一一月に当時原告が所属していた総務財政局の片岡局長に対し総務財務局の局員全員を集めて右の件について説明会を開催するよう申し入れ、右の要請に基づいて同年一二月に説明会が開催され、原告はその説明会に出席して説明を求めるなどしたこと、原告は平成五年一月に開催された総務財政局全体会議において自らの過重労働の改善と女子事務職員の処遇における男女差別の改善を強く求め、同年四月総務財政局長に対し本件旧規定に基づいて苦情申立てをし、原告の苦情申立てを審議するため中央執行委員会が設けた苦情処理委員会は原告などから事情を聴取した結果を踏まえて審議し、総務財政局長以下を訓告としたこと、被告は平成六年五月財政の建て直しと将来に向けた活性化を理由に、被告の従業員規定の見直し(案)を発表したが、原告はこの規定の変更が一方的であると考え、改訂案についての説明会を設けるよう求め、同年六月上旬ころ説明会が開かれたこと、原告は同年八月被告に対し被告内の合理化問題について従業員に直接関係する重要な事案を秘密的に行っていないで公表すべきであると申し入れたこと、原告は平成七年二月時間外・休日労働に関する三六協定書の有無を知るために被告に対し三六協定書の写しを交付するよう求めたところ、被告の回答から三六協定書がないことが判明したので、被告の所在地を管轄する三田労働基準監督署において三六協定がないのに一日八時間一週四〇時間を超える労働が労働基準法に違反していることなどを確認した上、同月下旬から時間外・休日労働を断るようにした。原告は同年四月一〇日三田労働基準監督署に対し被告が労働基準法に違反していることを申告し、三田労働基準監督署の監督官が右同月事実関係の調査を開始し、その後被告は労働基準法違反で送検されたこと(以上、前記第三の一1(一四))、以上の事実が認められる。

これらの事実からは中西組合長を始めとする被告の役員が原告を被告から排除したいと考えるほどに原告を嫌悪していた可能性がなくはないと考えられるものの、これらの事実から直ちに中西組合長を始めとする被告の役員が原告を被告から排除したいと考えるほどに原告を嫌悪していたとまで認めることはできない。

そして、本件依命休職処分は、原告と被告との間で締結された雇用契約が原告が被告に提供すべき労務の種類を公用車の運転に限定した契約であることから、公用車の廃止の決定に付随して被告の財政の健全化を目的としてその一環として行われた処分というべきであるから、被告が資金運用の失敗によって生じた損失の処理を第四七年度から第四九年度まで行ったが、単年度に赤字を計上したのは第四七年度及び第四八年度だけであり、第四九年度以降には黒字を計上していたこと(前記第三の一1(三)、(六)、(七)、(九)、(一五))、執行体制効率化検討委員会が取りまとめた執行体制効率化実施大綱や財務委員会の第四次中間答申に示された人員削減策が大綱や答申に示されたとおりに実現されたことは本件全証拠に照らしても必ずしもうかがわれないこと(もっとも前記第三の一1(三)のとおり被告の従業員が減少したことは認められる)、被告がかつて支部を閉鎖する際には支部の従業員と話し合い納得して退職するか他の部署に配置転換して解決していたのに、原告についてはそのような手続がとられていないこと(人証略)、被告には原告を配置すべき関連会社や団体が多数あるにもかかわらず、原告をそれらに配置転換させることすら検討されていないこと(人証略)は、いずれも中西組合長を始めとする被告の役員が原告を被告から排除したいと考えるほどに原告を嫌悪していた証であるということはできないのであり、他に被告が原告を嫌悪していた証であるといえるものはないのである。

以上によれば、中西組合長を始めとする被告の役員が原告を被告から排除したいと考えるほどに原告を嫌悪していたことをうかがわせる具体的な事情が認められない本件においては、前記認定の事実から被告による公用車の廃止が原告に対する報復を意図して原告を被告から排除する目的で行われたことを認めることはできない。

そうすると、被告による公用車の廃止について労働組合としての組織の維持、運営上の必要性を肯定することができ、また、そのことは労働組合としての組織の維持、運営上の観点から合理性を有すると認められるという前記判断は左右されない。

(イ) 次に、本件依命休職処分の発令当時に被告が公用車の廃止によって原告が余剰人員となったかどうか、余剰人員となったとして原告を他の部門に配転することが可能であったかどうかについて検討する。

<ア> 原告の担当業務は公用車の廃止によって消滅したのであるから、公用車の廃止が決定された時点において原告は余剰人員になったというべきである。

<イ> そして、被告は原告に対して職種の変更を求める配転命令権を有していないのであるから、原告の担当業務が消滅した以上、原告と被告との間で締結された雇用契約を存続させるべき理由はなく、したがって、原告を被告の組織内において配属すべき適当な配属先があるかどうかについて検討するまでもなく、被告が原告との間で締結した雇用契約を一定期間の満了時に終了させることもやむを得ないことであると考えられないでもない。

<ウ> しかし、被告が原告に対して職種の変更を求める配転命令権を有していないとしても、被告が原告に対して職種の変更を申し込むことは自由であり、原告がその申込みに応じれば、原告と被告との間で締結された雇用契約はなお存続するのであって、被告の従業員を依命休職員とするときの要件である「配置上止むを得ないと認められる」場合とは、依命休職員とされた者を被告の組織内において配属すべき適当な配属先がないため被告がその者との間で締結した雇用契約を一定期間の満了時に終了させることがやむを得ないと認められる場合をいうと解すべきであることも併せ考えると、被告が原告に対して職種の変更を求める配転命令権を有していないからといって、そのことから直ちに原告を被告の組織内において配属すべき適当な配属先があるかどうかについて検討もしないで、原告と被告との間で締結された雇用契約を一定期間の満了時に終了させることもやむを得ないことであるということはできない。

<エ> そこで、原告を被告の組織内において配属すべき適当な配属先があるかどうかについて検討する。

被告には組合従業員の区分として執行部員と組合職員があり、組合職員は特別職員、運転士、事務職員及び用務員に分かれている(前記第二の二4(二))が、原告は被告の運転士として採用されたのであり、原告が被告に採用されたのは原告の運転士としての仕事ぶりが評価されたからであること(前記第三の一1(一))、原告は被告に採用された後は被告の運転士としての運転の業務以外の業務に従事することもなくはなかったが、原告の業務はあくまでも被告の運転士として運転の業務に従事することであったこと(前記第三の一1(一)、(二))が認められ、これらの事実に証拠(略)を加えて勘案しても、被告の運転士としての運転の業務以外の業務について原告に適性があるかどうかを判断することができるほどには運転の業務以外の業務に従事していたわけではないのであって、したがって、本件依命休職処分当時被告の運転士としての運転の業務以外の業務について原告に適性があるかどうかは不明であったというべきである。

そして、被告の執行体制効率化検討委員会は、本件依命休職処分に先立つ平成六年九月六日、今後三年間に一〇パーセント程度の人員の縮小を先行実施することを答申し(前記第三の一1(八))、財務委員会は、平成七年四月二五日、予想以上に早まっている組織減少と今後の厳しい財政事情にかんがみ、従来にも増して徹底した経費の洗い直しに取り組む一方、既存の活動及び執行の体制のあり方について見直しを行うなど、経費の徹底した節減合理化に努め、簡素にして効率的な組織機構の実現を図るべきであり、そのための一つの方策として常任役員の公用車の廃止の検討を答申した(前記第三の一1(一〇))のであるから、運転士として採用した原告を被告の組織内において配属すべき適当な配属先があったとは考え難いというべきである。

したがって、本件依命休職処分の発令当時原告を被告の組織内において配属すべき適当な配属先があったことを認めることはできないのであって、そうすると、本件依命休職処分当時原告を他の部門に配転することが可能であったということはできない。

(ウ) そこで、解雇によって達成しようとする労働組合としての組織の維持、運営上の目的とこれを達成するための手段である解雇ないしその結果としての失職との間に均衡を失していないかどうかについて検討する。

<ア> 本件依命休職処分は、当面は組織解体の危機に陥る危険があるということはできない被告が被告の財政構造の改善及び被告の財政の脆弱さの改善を図るという意味における財政の健全化を図る目的で行った公用車の廃止の決定に伴って行われた処分であるから、余剰人員の削減の緊急の必要性があるとは認められないのであって、通常は業種の拡大を図ることや今後数年間の自然減を待つことによって余剰人員を吸収すれば余剰人員削減の目的を達成できるのであり、そうすると、そのような方法による余剰人員の吸収が不可能である場合を除いては、目的と手段・結果との間の均衡を欠くということになるように考えられないでもない。

<イ> しかし、被告の財政構造の改善及び被告の財政の脆弱さの改善を図るという意味における被告の財政の健全化を図るためには、正規組合員の増加によって組合費が増えそれによって余剰人員となる原告を吸収すべきであるところ、第四七年度以降も一貫して被告の正規組合員数は減少し続けており、被告が正規組合員を新規に開拓してその数を増加させることは極めて困難な状況に置かれていることからすれば、本件依命休職処分の発令の時点において正規組合員の増加によって公用車の廃止に伴い余剰人員となる原告を吸収することはできなかったというべきである。

また、今後数年間の自然減を待つことによって余剰人員を吸収すべきであるというのは、余剰人員とされた者の担当する業務が消滅したからといって、そのことから直ちにその余剰人員とされた者との雇用契約を終了させるべきであるとはいえないことを前提としているところ、原告と被告との間で締結された雇用契約は原告が被告に提供すべき労務の種類を公用車の運転に限定した契約であるから、原告の担当する業務が消滅した以上、原告と被告との間で締結された雇用契約を存続させるべき理由はないというべきであって、本件依命休職処分の発令の時点において被告は今後数年間の自然減を待つことによって公用車の廃止に伴い余剰人員となる原告を吸収すべきであるということはできない。

したがって、本件依命休職処分については余剰人員の削減の緊急の必要性はないとしても、被告は業種の拡大を図ることや今後数年間の自然減を待つことによって余剰人員となる原告を吸収すべきであるということはできない。

<ウ> 以上によれば、本件依命休職処分によって被告の財政構造の改善及び被告の財政の脆弱さの改善を図るという意味における被告の財政の健全化を図ろうとすることと同処分に係る本件依命休職期間の満了による原告の退職との間の均衡が欠けているということできない。

(エ) 以上によれば、本件依命休職処分はその発令の時点において余剰人員の削減の必要性という点については合理性を有するものと認められ、したがって、本件依命休職処分はその発令の時点において解雇権の濫用として無効であるということはできない。

(2)ア 原告は、被告が原告に本件依命休職処分を発令したのは原告の行動に対する報復であり、被告が本件旧規定五条二項(2)号に基づいて依命休職員とする対象として原告を選定したことは恣意的であると主張する。

イ しかし、原告が運転士として被告に採用され、運転士として勤務を続け、その担当する公用車の運転という業務が消滅し、かつ、原告を他に配転することができなかったために本件依命休職処分が発令されたのであって、前記第三の一2(三)(1)ウ(ア)<エ>において認定、説示したことも併せ考えれば、被告が本件旧規定五条二項(2)号に基づいて依命休職員とする対象として原告を選定したことが恣意的であるということはできない。

(3)ア 原告は、本件依命休職処分は顧問の給料の引下げや役員月報の値上げの抑制といった解雇回避義務を尽くした上で発令されたわけではないと主張する。

イ しかし、原告が運転士として被告に採用され、運転士として勤務を続け、その担当する公用車の運転としいう業務が消滅し、かつ、原告を他に配転することができなかったために本件依命休職処分が発令されたのであって、右の事実によれば、被告が原告の主張に係る解雇回避義務を尽くさなかったからといって、そのことから直ちに本件依命休職処分の発令が無効であるということはできない。

(4)ア 原告は、被告が本件依命休職処分を発令するに当たり原告と事前に何の協議もしなかったことや本件依命休職期間中に研修その他の方法により原告を他の業務に習熟させて就労させるという手続を全くとっていないことに照らし本件依命休職処分は手続として無効であると主張する。

イ しかし、原告が運転士として被告に採用され、運転士として勤務を続け、その担当する公用車の運転という業務が消滅し、かつ、原告を他に配転することができなかったために本件依命休職処分が発令されたのであって、右の事実によれば、被告が本件依命休職処分を発令するに当たり原告と事前に何の協議もしなかったことや本件依命休職期間中に研修その他の方法により原告を他の業務に習熟させて就労させるという手続を全くとっていないことを理由に、本件依命休職処分の発令が無効であるということはできない。

(5)ア 原告は、本件依命休職処分の発令及び同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職は原告が被告の労働基準法違反を申告などしたことへの報復を目的とした不利益取扱いであり、労働基準法一〇四条二項により無効であると主張し、仮に同条項により無効であると認定できないとしても、少なくとも本件依命休職処分の発令と同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職は原告による労働基準法違反を理由とした残業の拒否や原告による労働基準法違反の申告など、労働者としての権利行使に対しての報復感情に基づく恣意的な解雇であって、解雇権の濫用により無効であると主張する。

イ しかし、前記第三の一2(三)(1)ウ(ア)<エ>において認定、説示したことからすれば、本件依命休職処分の発令は原告が被告の労働基準法違反を申告などしたことへの報復を目的とした不利益取扱いであり、労働基準法一〇四条二項により無効であるとか、原告による労働基準法違反を理由とした残業の拒否や原告による労働基準法違反の申告など、労働者としての権利行使に対しての報復感情に基づく恣意的な解雇であって、解雇権の濫用により無効であるなどということはできない。

(6) 以上の外、本件依命休職期間が本件旧規定五条二項(2)号に定める依命休職期間のうち最長の一年であることも勘案すれば、本件依命休職処分の発令の時点において公用車の運転という担当業務が消滅した原告について被告の組織内において新たに配属すべき適当な配属先がなく、そのため原告と被告との間で締結した雇用契約を一定期間の満了時に終了させることはやむを得ないと認められる。前掲の原告の主張の外に本件依命休職処分が解雇権の濫用として無効であると原告が主張する点は右の判断を左右するには足りない。

(四) ところで、本件依命休職処分の発令と同処分に係る本件依命休職期間の満了による退職が解雇の実質を有するとすると、単に本件依命休職処分の発令当時において公用車の運転という担当業務が消滅した原告について被告の組織内において新たに配属すべき適当な配属先がなく、そのため原告と被告との間で締結した雇用契約を一定期間の満了時に終了させることはやむを得ないと認められるのみならず、本件依命休職処分に係る本件依命休職期間の満了までに原告について被告の組織内において新たに配属すべき適当な配属先がなく、そのため原告と被告との間で締結した雇用契約を一定期間の満了時に終了させることはやむを得ないと認められた事情が消滅したとすれば、本件依命休職処分に係る本件依命休職期間の満了によって原告が退職するという法的効果が発生しているということはできない。

しかし、被告の常任役員は公用車の廃止を決定した後は地下鉄やバスなどの公共交通機関の外はタクシーを利用している(前記第三の一1(一三))というのであり、公用車の廃止後に廃止した公用車をそのまま利用し又はこれに代わる車両を用意してそれを運転する従業員を新たに雇用しているという事情などは全くうかがわれないのであって、このことに、以上認定、説示したことを加えて総合すれば、本件依命休職処分に係る本件依命休職期間の満了までに原告について被告の組織内において新たに配属すべき適当な配属先がなく、そのため原告と被告との間で締結した雇用契約を一定期間の満了時に終了させることはやむを得ないと認められた事情が消滅したということはできないから、原告は本件依命休職期間の満了によって被告を退職したというべきである。

二  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。

(裁判官 鈴木正紀)

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